民事法律扶助制度の改善を求める意見書
第1 意見の趣旨
総合法律支援法と日本司法支援センター業務方法書を改正し、以下の点を改善することを求める。
1 被援助者の償還の負担を軽減すること。
2 扶助事件を担当する法律実務家を充分に確保できるよう、報酬基準を適正な水準まで引き上げること。
3 上記1と2を両立するため、被援助者の負担額と法律実務家の報酬額を切り離し、その差額を国庫が負担すること。具体的には、準生活保護に対する償還免除の運用緩和や一部償還免除の導入などによって、費用の立替と全額償還を原則とする現行の制度から、被援助者の負担能力に応じて負担を課す制度へと転換すること。
4 民事法律扶助制度の適用対象を拡大し、法的サービスを必要とする市民が、費用の心配をすることなく、広く権利の実現を図れるようにすること。
第2 意見の理由
1 被援助者の償還の負担を軽減すること
総合法律支援法第4条は「資力の乏しい者その他の法による紛争の解決に必要なサービスの提供を求めることに困難がある者」の法的サービスの利用をより容易にすべきものとしている。
近時の日本の貧困線は等価可処分所得で約127万円、相対的貧困率は15.4%である(*1)。
また、生活保護受給世帯数は約165万世帯で、総世帯数の約2.9%、人数にして約200万人で総人口の約1.6%である(*2)。
これに対し、民事法律扶助の対象となる世帯数や人口の全体に占める割合は明らかではないが、民事法律扶助の所得基準から推計すると、等価可処分所得が概ね16万円(年192万円)までの世帯が民事法律扶助の対象となると考えられ、その割合は全世帯の8%程度にとどまると推定される。
現在、生活保護受給者については、民事法律扶助費の償還が免除されてはいるものの、それ以外の被援助者については、原則としてその全額の償還が義務付けられている。
世帯構成によってもその置かれた経済状態はさまざまであるため一律には言えないものの、貧困線未満の所得で生活する者であっても、生活保護受給者でなければ償還が必要であり、また、扶助費の償還をすることによって貧困線未満での生活を余儀なくされるケースも想定される。
さらには、生活保護の捕捉率が20%ないし30%と極めて低いことを考えると、民事法律扶助の償還制が被援助者の生活に大きな負担となっていることは容易に理解できよう。(*4)
償還負担が軽減されなければ、市民は安心して法律扶助を利用することができない。
2 扶助事件を担当する法律実務家を充分に確保できるよう、報酬基準を適正な水準まで引き上げること
日本弁護士連合会がこれまでもしばしば指摘してきたように(*5)、現行の報酬基準は法律実務家の労力に見合わない低廉なものとなっている。
例えば、同時廃止型の自己破産申立事件の日弁連の旧報酬基準は、着手金の最低額を200,000円、報酬金の最低額を200,000円、合計400,000円と定めていた。
これに対し法テラスの報酬基準は、自己破産申立事件の手数料が120,000円から170,000円である。こちらは手数料形式であるから報酬金はなく、総額がこの金額である。
離婚調停事件については、日弁連の旧報酬基準は着手金の最低額を200,000円、報酬金の最低額を200,000円、合計400,000円と定めていた。
これに対し法テラスの報酬基準は、着手金の標準額が210,000円、報酬金の標準額が80,000円、合計で290,000円である。日弁連の旧報酬基準が最低額を定めていたのに対し法テラスの報酬基準は標準額を定めていることに留意されたい。
扶助事件は通常の事件処理に加えて扶助申請の手続や法テラスへの報告書の作成、被援助者の償還に関する事務など、余分な作業が必要となる。
加えて、扶助事件の依頼者は生活に困窮していることが多く事件処理以外の様々な対応が必要となる場合が少なくなくない。そのため、業務量に比して報酬が低廉にすぎるというのが法律実務家の共通理解となっている。
扶助事件は一部の法律実務家の献身的な努力によって支えられている一面があり、経営的に余裕のない実務家にとっては取り扱うことが難しい事件類型となっている、最近では扶助事件を敬遠する実務家が増えてきており、担い手不足が懸念される状況となっている。
3 上記1と2を両立するため、被援助者の負担額と法律実務家の報酬額を切り離し、その差額を国庫で負担すること。具体的には、準生活保護に対する償還免除の運用緩和や一部償還免除の導入などによって、費用の立替と全額償還を原則とする現行の制度から、被援助者の負担能力に応じて負担を課す制度へと転換すること
以上のとおり、民事法律扶助の制度を維持するためにこれを支える法律実務家を確保しようとすれば、それに見合う報酬基準の引き上げが必要であるが、他方、その費用を原則として被援助者に負担させることとすれば、被援助者の生活が維持できないという事態になりかねない。法律実務家の確保と被援助者の負担の軽減を両立させようとすれば、費用の立替と償還を原則とする現行の制度を改めるほかない。
現在、生活保護受給者及びこれに準じる程度の生計困難及び資力回復困難者(以下、「準生保」という。)に限っては、償還の免除が導入されており、その限度では費用と償還が切り離されている。
しかしながら、「準生保」免除にあたっては、特例的に簡易な処理が認められている自己破産事件を除き、配偶者の収入や資産に関する資料など自己破産手続以上に多くの資料の提出を求められ、償還免除の獲得がほとんど不可能となっている。自己破産事件以外の事件類型においても、提出資料を簡素化するなど運用を緩和し、「準生保」償還免除の範囲を拡大することが切実に求められている。
また、生活保護受給者及び「準生保」免除を除くと、立て替えられた費用の「全額」償還が求められており、償還免除を認められる者とそれ以外の被援助者との間で負担の程度が全く異なっている。この格差を是正するためには、「一部償還免除」の制度を導入し、例えば、被援助者の収入状況に応じて月額5000円ないし1万円を3年間償還すれば残額を免除できるようにすることが実務的に極めて有用である。このように償還義務の程度(償還免除の範囲)を段階的に定めることで、制度の維持と被援助者の負担のバランスを図りながら、償還免除審査の運用を緩和し、かつ、弁護士報酬の増加が被援助者の負担の増加に直結する矛盾を回避することが可能となる。
費用の支出額と償還額を切り離した場合、その差額は国庫からの持ち出しということにならざるを得ない。しかし、このような国費の支出は決して不合理なものではない。民事の紛争といえども、それは決して純然たる私的な問題ではない。多重債務は経済的に困窮する階層の市民が、やむなく高利の資金に手を出した結果であり、市場経済の矛盾が発現した社会的現象と言ってよい。
離婚事件において妻側が弁護士費用を負担できないのは、女性の所得が低く抑えられてきているという、社会的な問題を背景としている。これらの市民が費用の心配をせずに法的サービスを受けられるようにすることは、国家の責務であり、その費用を国費で賄うことはむしろ当然といってよい。
民事法律扶助において、制度の担い手不足が懸念される事態ともなっているまさに今こそ、大きな制度改革に踏み切るべき時である。
4 民事法律扶助制度の適用対象を拡大し、法的サービスを必要とする市民が、費用の心配をすることなく、広く権利の実現を図れるようにすること。
(1) 在留資格のない外国人
総合法律支援法第30条第1項第2号は、民事法律扶助の利用対象者を「国民若しくは我が国に住所を有し適法に在留する者」と定めており、在留資格のない外国人はそもそも制度の対象外に置かれている。
しかしながら、非正規滞在となった原因は事案ごとにさまざまであり、まさにその在留資格を回復するために、法的サービスの利用が必要となる場合もあり得るし、在留資格のない外国人が交通事故の被害者になった場合のように、在留資格の有無によって扶助を利用できるか否かが変わることが不合理である場合もあり得る。非正規滞在外国人の人権保障の観点から、これらの人々を最初から民事法律扶助制度の対象外とすることには問題があると言わざるを得ない。
(2) 行政処分の申請手続及び不服審査手続
総合法律支援法第4条は「総合法律支援の実施及び体制の整備に当たっては、資力の乏しい者その他の法による紛争の解決に必要なサービスの提供を求めることに困難がある者にも民事裁判等手続及び行政不服申立手続の利用をより容易にする民事法律扶助事業が公共性の高いものであることに鑑み、その適切な整備及び発展が図られなければならない。」と定めている。
しかるに、同法第30条第1項第2号は、行政処分の申請手続の全部と、ごく一部の例外(*6)を除く行政不服申立手続を扶助の対象としていない。
生活保護、労災、介護保険、年金、難民認定等の申請手続及び行政不服審査手続の中には、法律専門家の支援なしには適切に行うことが困難なものが多数ある。
現に、難民認定、外国人の在留資格の維持・許可等、精神障害者・心神喪失者等医療観察法に基づく退院請求等、生活保護の申請や、これらに関する行政不服審査については、日弁連の委託援助事業の対象となっていて、弁護士の支援が必要な分野であることは間違いないのである。
結局のところ、民事法律扶助事業が「公共性の高いものである」と言いながら、日弁連という民間団体に資金を負担させて運営している状態であり、ここでも国費を投入してこれらの分野も法テラスの本来事業に位置付けるべきなのである。
第3 結語
費用償還が過大な負担となる市民が存在する一方で、扶助事件は赤字になりかねないものとして敬遠せざるを得ない法律実務家も増えている。
実務家の使命感に依存するのでは、民事法律扶助制度は持続しない。
報酬基準を抜本的に引き上げつつ、被援助者の負担額と法律実務家の報酬額を切り離し、全額償還制度から被援助者の負担能力に応じた負担を課す制度へと転換し、その差額を国庫が負担する体制に変えていくことが不可欠である。
併せて、民事法律扶助制度の適用対象を非正規滞在の外国人や行政手続にも拡大し、法的サービスを必要とする市民が、費用の心配をすることなく、広く権利の実現を図れるようにすべきである。
2026年6月29日
全国クレサラ・生活再建問題対策協議会
